血管内皮細胞が血栓形成に果たす役割は大きい。われわれは血管内皮細胞における線溶制御機構の調節や凝固活性の動態に、サイトカインの向凝固活性をうち消す方向で制御している「血流」の役割が重要であることを明らかにしてきた。平成10年度は、凝固制御因子である組織因子経路抑制因子(TFPI)に関して、その発現を坑TFPI抗体を用いた免疫組織法・抗原量をEIA法・膜上の発現をレーザーフローサイトメトリーにて測定した。TFPIの発現様式は、従来検討した凝固線溶因子とは若干異なり、培養HUVECに、炎症性サイトカインであるTNF刺激を加えてもその発現に変化は見られず、一方、腫瘍促進因子であるPMAがTFPIの発現を軽度低下させた。一方血流の影響は殆ど認められなかった。平成11年度では、炎症性サイトカインなどによる血管内皮細胞の血栓性への変化には、接着因子の関与も重要であることに着目し、血管内皮細胞膜上に発現している接着因子であるEセレクチンとMel-CAMの動態を検討した。ヒト微粘膜微少血管内皮細胞を抗原として作成したモノクローナル抗体を利用し、炎症性サイトカインの一つであるTNFやLPSを負荷し、血流の存在下での動態を、免疫染色法、ELISA法による抗原量の測定・フローサイトメトリー法による細胞表面の変化などを用いて検討した。その結果、Eセレクチンは静止時未刺激では発現は殆ど認められず、TNFやLPS刺激後3〜6時間で発現が増強した。一方Mel-CAMは静止時未刺激のHUVECでも発現が強く認められ、TNFやLPS刺激後では、培養上清中の放出が増大し、血流により抑制される蛍傾向が認められた。膜表面の発現はTNF刺激で増加したがLPS刺激では認められなかった。白血病や血小板の粘着に関わる接着因子もサイトカインや血流の影響を受け、複雑なネットワークで血管の坑血栓性を制御していることが示唆された。
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