研究課題/領域番号 |
10470519
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
松田 ひとみ 北海道大学, 医療技術短期大学部, 助教授 (80173847)
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研究分担者 |
金川 克子 東京大学, 大学院・医学系研究科, 教授 (10019565)
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キーワード | 女性高齢者の生活戦略 / 昼間一人で暮らす女性高齢者 / 質的研究方法 / ルサンチマン / 女性高齢者の愛着行動 / 擬似家族化 |
研究概要 |
本研究では、女性高齢者が在宅療養生活を維持するために用いる戦略の特性(動機と内容)を明らかにした。研究方法は、生活戦略の構成要素を暮らし方別(ひとり暮らし、昼間一人で暮らす)のTheoritical samplingに対して、参加観察法と面接法によって帰納的に導き出した。 分析の結果、ひとり暮らし女性高齢者が訪問看護婦の参加を得てその生活を維持する場合には、施設内高齢者には見られない「主役の座を確保する」ことや「自己観を保全する」という状態を獲得していた。この2つの中心的なカテゴリーは、入院生活では脅かされることがあり、在宅生活によって獲得しやすいと捉えられた。対象の多くが過去の入院生活に不快感を表し、それが在宅療養生活を選択する理由となっていた。これは、戦略を用いる動機としてのルサンチマンの一要素として見いだされた。ルサンチマンは、ニーチェによる公式理論と関連づけられる。すなわち、高齢者の過去の悔恨が復讐心を形成して、苦難の多いひとり暮らしを成立させるという見解である。また、昼間一人で暮らす、については高齢者が看護婦を家族のように親密に扱うことでケアを円滑に実施させていた。これを「擬似家族化作用」と名づけることができた。一方、子供との関係においては「幼児期の母子関係を再現」しようとする働きかけを捉えることができた。この2つの中心的なカテゴリーは、家族が存在しない昼間と家族が帰宅する夜間との生活の差異から生じていると思われた。「擬似家族化作用」は、高齢者自身にとっても生活の安定につながり、看護婦にとってもケアの円滑に結びついていることがわかった。このように「擬似家族化作用」は、高齢者と看護婦の双方に有益なコンセプトであることがわかった。最後に、「ひとり暮らし」と「昼間一人で暮らす」高齢者を比較すると、訪問看護婦との関係で前者は「客」としてもてなし、後者は「家族」ように扱われる存在であり、愛着(attachment)の様相であった。 以上のように、ひとり暮らしと昼間ひとりで暮らす女性高齢者には、動機や人間関係の形成に相違がみられることがわかった。
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