研究概要 |
1.東京都内T産院においてMRSAの分離を行ったところ,妊産褥婦92名の保有率は,入院時手指0%,鼻腔0%,退院時手指1.4%,鼻腔1.4%,1ヶ月健診時の新生児17名の保有率は,手指0%,鼻腔5.9%,病棟職員49名の保有率は,手指3.4%,鼻腔0%であった.これらは先行研究と同等ないし低値であり,健常者が利用する単科産院においてはMRSA保有率は低いことが明らかになった.さらに,パルスフィールド電気泳動の結果,退院前に接触のない2名の母親,1ヶ月健診時の新生児と沐浴槽から同じ遺伝子パターンのMRSAが分離され,産院内でMRSAを保菌したことが示唆された. 2.東京都内T総合病院産科で分娩後,乳房外来受診中の11名の母親の母乳と乳輪部からの菌分離を行ったところ,11名中6名の母乳,7名の乳輪部から黄色ブドウ球菌を検出した.母乳陽性となった1名はMRSAであり,この母親の児は検査入院歴をもち,児の鼻腔,口腔からもMRSAを検出したことから,児から母親に伝播したことが示唆された. 3.東京都内S総合病院産科におけるMRSA陽性率は,妊産褥婦42名では入院中0%,1ヶ月健診時0%,新生児42名では入院中0%,1ヶ月健診時2.4%,分娩に立ち会った父親4名では0%,医療従事者30名では11.1%,環境20カ所では15%であった.先行研究と比較すると,妊産褥婦と新生児では低値であるが,医療従事者では同等の保有率であった.さらに,パルスフィールド電気泳動による遺伝子パターン,薬剤感受性試験の結果,病棟環境と新生児,病棟環境と助産婦の間でMRSAが伝播することが明らかになった.また,医療従事者への質問紙調査では,手洗いに必要な時間の認識に比べて,実際の手洗いの時間が短く,知識と行動が一致しないことが示唆された.
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