本研究の目的は、ヒトにおいて身体運動が睡眠-覚醒リズムの変調要因となりうるかを検証することであった。身体運動がヒトの睡眠-覚醒リズムを変調させるかとの問いに答える際、最も問題となるのは、通常の日常生活においては、明暗サイクル・社会生活のリズムなどの物理的・社会的同調因子-非常に強力であるにもかかわらずコントロールが困難である-が身体運動の影響を隠蔽してしまうかも知れないということである。そこで本研究では、概日リズムの変調を起こすような明暗サイクルや時間情報を示す機器の一切ない部屋に被検者を住まわせるという「時間隔離実験」を行い、概日リズムの異なった相で行う身体運動が、被検者の睡眠-覚醒リズムや自律神経活動の日内リスムに与える影響を観察することを目的とした。 初年度である平成10年度においては、主として時間隔離実験施設(岐阜県神岡町神岡鉱山内)の整備および対照実験、として運動を行わない自由継続リズムの観察を行った。コンピュータ制御で、心電図R-R間隔の一拍毎の変動(心拍変動)、体温、体動、頭部運動、室内照度などを連続的に測定し、データ確認のためにこれらをインターネットを介して所属研究室(東京)のワークステーションに実時間で転送するシステムを構築、動作確認を行った。また、被検者の行動内容、内感、起床後より1時間毎の時間経過の推定結果を記録するテキストエディタ(時間情報の隠されたもの)を制作した。対照実験の結果、このように自動化され検者の介入が最小限の状態では、被検者が固有にもつ体温等の概日リズムと睡眠-覚醒リズムは、比較的容易に乖離することが示された。この結果を受けて、次年度においては、決まったタイミングで行う身体運動が、睡眠-覚醒リズムに見られる脱同調を補正しうるかについて検討を加える予定である。
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