牛枝肉、健康牛の糞便、下痢症患者の糞便から、約100株の大腸菌O157を分離し、その遺伝的多様性をパルスフィールドゲル電気泳動により確認した。これらの分離菌を用いて、大腸菌O157の低温での増殖特性を調べた。各種食品に大腸菌O157を接種し、4〜15℃にインキュベーションして経時的に細菌数を測定した。大腸菌O157の増殖は、5℃以下ではきわめて遅いが、8℃以上では温度の上昇と共に増殖速度も増加した。各種野菜類は、8℃で1日間後に1000〜10000倍に菌数が増殖するキュウリ等の野菜類と、きわめて増殖速度が遅いピーマン等の野菜類に大別された。保存温度が2℃上昇した場合(10℃)、増殖速度は数倍に増加した。保存温度のわずかな上昇が、大腸菌O157の増殖を著しく高めるため、温度管理の徹底が必要と考えられる。また、例えば4℃での増殖において、食品の種類が大腸菌O157の増殖速度に著しい影響を与えた。即ち、牛肉中における4℃での増殖は、牛乳中での増殖に比べて著しく高く、大腸菌O157が1細胞混入した牛肉は保存温度の管理が不十分な場合、集団食中毒の原因となり得ることが想定される。各種食品中で増殖した大腸菌O157のベロ毒素生産性も分析し、菌株により毒素生産量が異なるものの、食品の種類により生産量は大きく変動することが明らかとなった。
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