研究概要 |
問題提起:わらべ唄などでは,歌い出しのキーや参照音が与えられているわけでも,またテンポが示されているわけでもない。しかし,それぞれがバラバラに歌いだしたにも関わらず,しだいに全体のキーに統一されてゆく。一見何でもないことのようだが考えてみると不思議な現象である。バラバラのキー,テンポであったはずの歌がいったいどのような原理,法則に基づいてキーが統一され,集団のピッチマッチが可能になるのであろう。 我々が考えだした仮説は次の8点である。 1)多数の人のキー,ビートに統一される。2)集団のリーダーの人に統一される。3)音楽的能力の高い人のキーに統一される。4)高い声の方に統一される。5)低いキーの人に統一される。6)早く歌いだした人のキーに統一される。7)声の大きい人のキーに統一される。8)平均的な高さのキーに統一される。 研究の方法:マルチトラックレコーダーMD8(Yamaha)を使用し、わらべ唄を同時録音した。これを録音編集システムProToolsによってハードディスクに収録し、Auto Tuneというピッチ解析アドインソフトでデータを分析した。テンポの統一については,イメージ情報科学研究書に動作・音響解析システム「Atom8」の開発を依頼し,これによって手拍子や,足のステップと音楽ビートの同期化に関する分析データをえることができた。 実験・調査結果:・意外にも1)-7)は否定され,幼稚園児、大学生ともに仮説8)の「平均的な高さのキーに統一される」という結果となった。ただし、テンポに関しては、平均的な速度ではなく、速い人に引摺られてどんどんはやくなったり、また逆に遅くなってゆくというように一定しなかった。 音楽教育への示唆:本研究では,自由斉唱としてのわらべ唄が,歌う過程で互いに譲り合いながら平均的なキーに統一点を見いだしているということを発見した。このことは,近年の幼稚園などで教えられている<わらべ唄>との決定的な違いである。わらべ唄を社会化という視点から見れば,本来のわらべ唄にみられるキー決定のプロセスにこそより重要な意義が認められるべきであろう。
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