この研究では、聴覚皮質活動を光学的計測法で時空間的に計測した結果を用いて聴覚皮質を2次元神経回路によりモデル化し、その活動をシミュレーションすることよって、音素や音節の特徴抽出に関わる音声認識初期過程における聴覚皮質の情報処理機構を解析した。光学的計測によると、モルモットの一次聴覚皮質には音の周波数が規則的に表示(周波数局在)されており、純音に対する活動は皮質の特定の位置でバンド状に伝播していく。音素を形成する周波数変調音や純音の組み合わせに対する応答は、この周波数局在構造に現れる時空間的活動パターンとして表示される。また、音声に含まれる高調波成分に対する活動は、互いに抑制性および興奮性の相互作用をおこし、聴覚皮質は単に周波数成分のみを表示しているものではないことが示された。さらに、途中に無音区間のある音に対する活動を調べると、5msより短い無音区間は活動の変化として現れてこないこともわかってきた。神経回路モデルでは、音素を構成する成分音の違いによる活動の伝播性の分岐特性について定量的に計算機実験を行った。音声を模擬した簡単化したフォルマント信号を入力信号として用い、複数フォルマントを入力した場合、各フォルマントを周波数一定にすると、入力開始のタイミングが異なってもある範囲で回路上伝播としては同期する。つまり入力のずれに安定に同時伝播として特徴を結合する能力があることがわかった。特徴結合が波動の相互同期的な伝播として実現するとすれば、音声認識の観点から適当な同期が得られるためには回路内で興奮性結合よりも抑制性結合の方が広い範囲に及んでいる必要があることもわかった。この研究で得られた結果は、聴覚皮質が音節の抽出に関わる特徴結合や文節化を神経集団の時空間的活動として行っている可能性を示唆する。
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