研究概要 |
人のコミュニティの中で,相異なる要求をもった構成員がコンピュータネットワークを利用する際に,それらの要求をよりよく反映し,かつ限りあるネットワーク資源を有効に利用するための手法として,ミクロ経済学で提案されてきた価格調整機構をベースとしたものを提案した.具体的には利用者の選好(preference)を代表する消費者エージェントと,アプリケーションプログラムやその下部システムによってネットワーク資源から利用者へのサービス品質(アプリケーションQoS)が生成される過程を代表する生産者エージェントとを定義し,これらが自分の利益を最大にするような入札をくりかえすことで,無駄のない割り当てを達成するというものである.本研究では3次元仮想空間を用いたデスクトップ会合システムFreeWalkをその応用の場として,市場モデルの構築,割当て機構の挙動のシミュレーションによる解析,およびその実装における動作性能の解析を行った.FreeWalkの特徴として,3次元仮想共有空間内での利用者の位置関係によって,各通信リンクに対する利用者の選好が異なってくることが挙げられる.利用者が移動することによる位置関係の変化を,通信に対する選好の動的変化ととらえ,従来は主に静的な割当てのためのものであった市場モデル中に,「現在」と「未来」という二つのカテゴリを設けてそれらの間での取り引きを許すことで,この動的変化を資源割当てに反映させた.これらについてシミュレーションによる実験評価を行った結果,3次元仮想共有空間内で互いに近くにいる利用者の間での通信により多くの帯域の割当てが行われ,利用者選好に基づくネットワーク資源の割当てが達成されていることが確認された.また,利用者を移動させた場合の割当ての変化から,現在-未来というモデル化が正しく機能していることが確認された.
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