研究概要 |
本研究では、海岸域に劇的な堆積作用の効果をもたらす津波に関して、物質運搬と環境改変の現象を精密且つ高精度に理解すべく、理学と工学の立場から検討を試みた。国内ではこれら両現象が最も顕著に現われた貞観三陸津波に関して、仙台平野から相馬市松川浦にかけての海岸地域で、トレンチ掘削を含めた野外調査を行った。その結果、仙台平野の広い地域と松川浦岩子で、砂層とこれを被覆する灰白色火山灰層の存在を確認した。珪藻化石の産出から砂層は津波堆積物であり、鉱物学的・AMS炭素同位体年代学的結果により火山灰層はAD980年頃に噴出した珪長質降下火山灰であることが明らかとなった。この地質学的事実と多くの歴史的記述に基づき津波発生の数値計算を行ったところ、海岸からの溯上距離が4kmに達する人類未経験の大規模津波であった可能性が示唆された。トレンチ掘削で、この津波堆積層の下位に3層の類似する津波堆積物が確認された。年代学的に層間期間が約1,000年と推定され、仙台湾沖では大規模津波が大凡1,000年周期で発生している可能性が明らかにされた。防災上重要な発見であると認識し、得られた成果を平成12年度地球科学関連合同学会で発表の予定である。 日本に於ける津波堆積物の解析と並行して、エ一ゲ海で発生したとされるミノア津波の検証を、主に堆積学的見地から行った。津波堆積物に含まれる化石の放射性炭素(^<14>C)を加速器質量分析装置(AMS)を用いて測定し、津波の堆積年代が歴史的な年代より300年古い結果を得た。エ一ゲ海各地の海岸における堆積学的な津波溯上の推定が計算機シュミレーションの結果と非常に調和的であり、津波がミノア文明を壊滅したとする考古学的解釈が間違いであると結論した。これらの結果を米国地質学会誌(GEOLOGY,2000,vol.28,p.59-62)に発表し、地質学と考古学及び災害科学の分野から高い評価を得つつある。
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