研究概要 |
本研究では,海岸域に劇的な堆積作用の効果をもたらす津波に関して,物質運搬と環境改変の現象をより精密且つ高精度に理解すべく,理学と工学の立場から検討する試みを企てた.国内ではこれら両現象が最も顕著に現われた仙台(貞観三陸津波)と南伊豆(天保駿河湾津波)でトレンチ掘削を含めた野外調査を行い,津波堆積物の存在を確認すると伴に,それらが放射性炭素年代的に両歴史津波に一致することが確認できた.津波堆積物の分布と堆積相を把握し,当時の海岸を埋め立てた物質の起源と運搬様式を堆積学的に検討した.含まれる化石と堆積物粒子組成から津波堆積物の起源が地球科学的に特定でき,購入設備備品である粒度分析装置を用いた粒径分布解析により,堆積物の運搬様式が明確に理解された.これらの堆積学的知識と測地情報を初期条件として,計算機シュミレーションを行っており,両歴史津波の地球科学的実態の解明を通して津波による破局的運搬堆積作用が明らかになった.一連の成果は,今後予測される津波溯上域の具体的被害評価を可能ならしめるばかりでなく,現海岸とその後背平野の成立過程を理論的に理解する基準を与えたと結論される. 日本に於ける津波堆積物の解析と並行して,堆積学的・水理学的見地から,3500年前にエーゲ海で発生した歴史津波の検証を行ってきた.現地調査で津波発生の痕跡を認め,化石に含まれる微量の放射性炭素(^<14>C)を名古屋大学年代測定資料研究センターの加速器質量分析装置(AMS)を用いて年代測定を行い,津波の歴史年代と堆積年代に極めて良い一致をみた.エーゲ海に面する西トルコ海岸での堆積学的な津波溯上の推定が,計算機シュミレーションの結果と非常に調和的であった. 本研究の成果を,外国旅費を利用して箕浦が平成10年度全米地球物理学会秋季大会(12月6-10日)に出席して報告し,今村は平成11年ギリシア・アテネで開催されたNatural Hazards Mitigation国際ワークショップで発表した.発表の場で共に好評を得る一方,平成12年1月にGEOLOGY誌に研究結果が掲載され,地中海地域をフィールドとする災害・考古学関係者の注目を得ている.
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