研究概要 |
核融合炉構造材料低放射化マルテンサイト鋼に高濃度ヘリウムを注入した後,600℃まで等時焼鈍を行い,焼鈍に伴う照射硬化および照射後組織変化ならびにヘリウムの脱離挙動を調べた。ヘリウム注入は,サイクロトロンを用い,36MeVのαビームを照射することにより行った.試料厚方向に均一に注入するため,エネルギーディグレーダーを用いた.照射温度は150℃以下であり、He注入量および損傷量はそれぞれ580atppmおよび0.232dpaである. 焼鈍温度の上昇に伴い,照射硬化量が低下する,いわゆる照射硬化の回復が見られた。比較のため,中性子照射材の回復挙動を同様に調べた結果,He注入材の回復ステージが約100℃程度高温側にシフトすること,およびこの回復ステージは,試料からのヘリウム放出を伴うことが明らかとなった。600℃までの焼鈍により,高密度のヘリウムバブルの形成が見られたが,その試験片の77Kでの破壊様式は,完全なへきかい割れであり,中性子照射材と同じであり,破壊エネルギーの顕著な低下は見られなかった. これらの結果から,ヘリウムはその存在状態(単一原子あるいはバブル)にかかわらず,580atppmまでは,低放射化フェライト鋼の照射硬化及び脆化を促進することは無いと結論される.むしろ,この程度の量のヘリウムは,点欠陥集合体を熱的に安定化し,マルテンサイト組織の高温度域における回復を抑制する,ポジティブな効果のあることが示唆された.
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