研究概要 |
平成12年度までの研究では,低放射化マルテンサイト鋼が内包するマルテンサイト組織の主要な部分を占める転位が,ヘリウムの有効な捕獲サイトとであることを示した。しかし,転位に捕獲されるヘリウムの量は,全捕獲ヘリウム量の約20%に満たないことから,転位以外にも有効な捕獲サイトの存在することを示唆している。中でも,マルテンサイトラス境界や微細な炭化物粒子界面は,ヘリウムとの相互作用の大きいことが予想されるため,微細粒子界面の寄与を評価する目的で,酸化物を分散させた低放射化フェライト鋼(酸化物分散強化鋼)におけるヘリウムの昇温脱離挙動を調べた結果,酸化物分散強化鋼においては,低温側でのヘリウム放出量は少なく,ヘリウムと強い相互作用を持つ捕獲サイトの多いことが判明した。 また,注入エネルギーを変化させて行ったヘリウムの昇温脱離実験からは,ヘリウムと空孔との相互作用を示す結果が得られ,転位からの放出ピーク付近に空孔からの脱離ピークの存在することが示唆された。そこで,MD計算による空孔とヘリウム原子の相互作用を求めた結果,空孔とヘリウムの結合エネルギーが転位との結合エネルギーに比べて小さい値を示す結果が得られた。このことは,転位が存在する場合には,空孔から先ずヘリウムが解離し,自由になった空孔が転位に吸収され,再度自由なヘリウムを捕獲することも考えられ,結果的にヘリウム捕獲量が増大すると予測される。 また,ヘリウム-空孔集合体は極めて安定であり,ヘリウムによる空孔集合体の熱的安定化が可能であることが判明した。これにより,高温における材料組織の回復が抑制され,高温強度特性,特に空孔の移動が重要な役割を果たすクリープ変形においては,ヘリウムがその回復を抑制する可能性が示された。これらの研究成果は,既に昨年行われた国際会議において発表した。
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