大腸菌の活性酸素ストレス応答は、スーパーオキサイドと過酸化水素という2種の活性酸素に対して別々の防御システムを持っており、それぞれSoxRS、OxyRというタンパクにより調節されている。スーパーオキサイドストレスに応答する調節タンパクのうち、SoxRタンパクはセンサーとして働き、スーパーオキサイドにより活性化され、このレギュロンの遺伝子の直接の転写のアクチベーターであるSoxSタンパクの発現を誘導する。SoxRの[2Fe-2S]クラスターはSoxRタンパクの転写活性に不可欠で、[2Fe-2S]クラスターが一電子の酸化を受けることにより活性化される。その酸化還元の機構について調べるため、まずスーパーオキサイドの発生しない嫌気的条件で実験を行った。diamideの処理によりsoxR依存的にsoxSの誘導が起きることが分かった。diamideはSH基の酸化剤として知られる試薬である。しかし、soxRの酸化還元はSH基の酸化還元と直接関係しているとは考えにくい。そこでdiamideのターゲットになる分子内に酸化還元されるSH基を持つ何らかのタンパクが、soxRの酸化還元に関係しているのではないかと考えた。大腸菌では、H_2O_2に応答して30種類以上のタンパクが誘導合成される。このstimulonにはoxyR遺伝子の産物によって正に調節を受ける少なくとも9種類のタンパクが含まれる。OxyRは6個のシステイン残基を含んでいる。このうち199番目と208番目のシステインのSH基が酸化されS-S結合を形成することによって活性化することが報告されている。酸化ストレスは一過性であり、活性型OxyRは細胞内の過酸化水素濃度が減少すると還元型(不活性型)に戻る。本研究では、チオレドキシン系やグルタレドキシン系の大腸菌変異株を用いてkatG遺伝子の発現およびOxyRの抗体を用いた生化学的な解析を行いOxyRの酸化還元の制御機構を解析した。その結果、チオレドキシンやグルタレドキシン、さらにチオレドキシン還元酵素およびグルタチオン還元酵素とOxyRとの関係について興味深い結果が得られた。
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