研究概要 |
一般にがん細胞は正常な核型を維持せず,その悪性度に応じて特徴的な染色体変化が観察される。一方,放射線は高頻度に染色体異常を誘発するが,照射後の生存細胞中にも種々の異常染色体が出現する。このことは,放射線発がんの初期反応として,染色体不安定性が重要な役割を担っていることを示唆する。そこで本研究では,染色体不安定性に最も密接に関わっている分裂期(M期)チェックポイント遺伝子をクローニングし,その分子構造と細胞内での働きについて調べることを計画した。本年度は3年間計画の初年度にあたるので,用いる培養哺乳類細胞のX線応答反応と既にクローニングしたM期制御遺伝子についての基礎的な実験を行った。 まず,我々が樹立したチャイニーズハムスター胎児(CHE)細胞より,p53遺伝子正常細胞株(CHE A1-4)とP53遺伝子変異細胞株(CHE A1-3)を分離し,X線照射後の細胞周期進行動態と染色体異常誘発について比較検討した。その結果,CHE A1-3細胞ではX線照射によるG1期からS期への進行阻害が見られず,CHE A1-4細胞に比べて多くの異常染色体が出現することがわかった。そこでCHE A1-4細胞にX線を照射し,経時的にM期細胞を集めてRNAを抽出してcDNAを合成した。これをもとにPCR法によりセリン・スレオニンキナーゼ領域を有する遺伝子をクローニングしたところ,酵母でM期チェックポイント機能が証明されているMpslと相同性のある新規の遺伝子XiK1が得られた。また,既に我々は一種のM期制御遺伝子AIM-1を分離しているので,ヒト正常二倍体線維芽細胞からそのヒトホモログをクローニングするとともに,ヒトがん細胞について発現量を調べた。興味あることに,7種のがん細胞すべてが正常細胞に比べて高い発現量を示し,AIM-1がヒト細胞のがん化形質発現に何らかの役割を果たしていることが示唆された。
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