放射線は高頻度に種々の染色体異常を誘発するとともに、照射後の生存細胞中にも安定型の異常染色体が出現することが知られている。そこで本研究では、細胞周期制御のうち染色体異常誘発や染色体不安定性の誘導に最も密接に関わっていると思われる分裂期に注目し、新規のチェックポイント制御関連遺伝子のクローニングとその分子構造、さらには細胞内での機能と発がんとの関連性について広範な解析を行った。 既に、ラット細胞より分裂期の最終段階に機能するチェックポイント遺伝子AIM-1をクローニングしているので、これをプローブとしてヒトcDNAライブラリーをスクリーニングした。その結果、344個のアミノ酸をコードするヒトAIM-1とBTAK/STK15として登録されている遺伝子と同一のものが分離できた。AIM-1はヒトがん細胞において発現が高く、またヒト正常細胞にトランスフェクトして高発現させると多倍体化した細胞が出現することから、AIM-1の機能亢進が分裂期の進行異常を引き起こすものと思われる。興味あることに、AIM-1はヒト大腸がんの悪性化に伴って高発現するのに対して、STK15の発現は悪性度に依存しなかった。一方、最近Ipl1/auroraファミリーがヒストンH3をリン酸化することが報告されたので、AIM-1の発現とヒストンH3リン酸化との関係について調べた。その結果、染色体の数的変化や多核化しているヒトがん細胞ではAIM-1が高発現し、それに対応してリン酸化したヒストンH3の割合が増加することがわかった。すなわち、AIM-1は分裂期の進行を制御する重要な分裂期チェックポイント因子であり、その過剰発現はヒストンH3の高レベルのリン酸化を引き起こし、その結果として染色体異常や染色体不安定性を誘起するものと思われる。
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