研究概要 |
泥炭湿原では表層地下水が湿原の維持管理あるいは利用の上から最も重要な環境要因である。その表層地下水の挙動が泥炭表層の不飽和帯の水挙動および植物の水利用すなわち蒸散とどのような関係にあるかを明らかにするのが本研究の目的である。研究は主に月ヶ湖湿原(ミズゴケ高層湿原)、釧路湿原(ハンノキ林低層湿原)、サロベツ湿原(ミズゴケ高層湿原)で行い、インドネシアの熱帯泥炭湿地林における観測データも利用した。月ヶ湖湿原の地下水変動から降水、地下浸透、水平移流の影響を除いた有効時間変動量(EHD)を求め、日射量と比較した結果、日中のEHDの変動は日射量変動に対し1-2時間の遅れは認められるがよく対応することが明らかとなった。湿原内に生育する維管束植物Myrica galeの茎内流は日中に上向きの流れを示し、日射とは時間の遅れなく良く対応していたが、夜間には量的には少ないが下向きの流れとなり翌朝までその傾向は続いた。その間、EHDもプラス値を示し、地下水位が微上昇を続けている事を示した。釧路湿原のAlunus japonica林では地下水位の変動が大きく夜間の地下水位微上昇と下向き樹液流は確認できなかったが、午前中の樹液流の増加が日射量の増加に対応せず、その間、葉面に付着した結露水からの蒸発の影響と推定された。サロベツ原野における地下水位、不飽和帯土壌水分、ライシメー夕による蒸発散量測定と不撹乱ミズゴケ泥炭土を充填したポット試験の結果、日中、蒸発散により低下した地下水位に対し、夜間に不飽和層から水の排出があり地下水位が微上昇している事も明らかになった。この夜間から早朝にかけての地下水位微上昇は熱帯泥炭湿地林でも存在していた。サロベツ原野におけるミズゴケ泥炭層内のC,N,Na,Ca等化学成分の垂直分布をみる深さ4mまでは均一であり、安定した水文システムが長年にわたり成立していたとみれられる。それには表層地下水と不飽和層内水分との水分移動システムの寄与が想定された。
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