天然有機化合物による核酸の化学修飾の研究は有機小分子による分子認識機構を解明するとともに、核酸の構造と核酸の生物学・医学的機能の関係を分子構造レベルで理解する上で必須である。さらに、この知見は発癌・制癌の初期過程の研究に対して基礎的情報を提供するものである。本研究では、動植物より得られた生物活性化合物に関して有機生物化学的研究を行う。 食用植物ワラビの発癌物質プタキロサイドから誘導される究極発癌物質は、DNAを塩基選択的にアルキル化し、切断する。そこで、合成テトラヌクレオチドを用いて、究極発癌物質によるDNA切断反応を行い、生成物を有機化学および生物化学的手法を用いて検討した結果、(i)プリン塩基の特定の位置がアルキル化されると、(ii)脱プリン反応が起こり、さらに(iii)生成するデオキシリボース部のβ脱離反応によってヌクレオチド鎖が切断されるという反応機構が明らかとなった。また、わらびの究極発癌物質の構造に基づいて安定な人工類縁物質を設計・合成し、これらが天然品と同程度のDNA切断機能を有することを明らかにした。 Wrangelia属の海藻より単離されたトリブロモアセトアミド化合物は付着性細菌の増殖阻害活性を有するとともに腫瘍細胞に対して細胞毒性や抗ウイルス活性を有する。この化合物の人工類縁体を合成し、構造活性相関およびin vivo生物活性試験の検討を行った。
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