本研究の目的は、アミノ酸側鎖間に形成される立体制約性CH/π相互作用を取り上げ、これをペプチドの生理活性コンホメーション固定化の新規な方法として確立することである。本年度は、当初予定の以下の3項目について検討した。 (1) CH/p相互作用を形成するD-Leu-Pheを核構造とする酵素阻害剤の分子設計 側鎖間で強いCH/π相互作用を形成するジペプチドD-Leu-PheNHBzl(p-F)のc末端ベンジル・フッ素原子をグアニジノ基で置換したところ、阻害対象酵素がキモトリプシンからトリプシンに完全に変換された。この機能変換は、C末端が基質認識部位であるS1ポケットに配向していることを立証するとともに、側鎖間で強いCH/π相互作用により構築される疎水性コア構造が堅固にセリンプロテアーゼ一般に適応した阻害コンホメーションを形成できることを示した。今回はさらに、トリプシン阻害を最適化するため多数の誘導体を合成して検討した。 (2) CH/π相互作用の構築用のコリン側鎖を持つアミノ酸の合成 π系ベンゼン環とより安定にCH/π相互作用を形成できると思われる側鎖にコリン基-N^+(CH_3)_3をもつD-コリンアミノ酸の合成を試みた。アセタミドマロン酸ジエチルエステルを出発原料とする合成法ルートを取ったが、水溶性がきわめて高く、光学分割に供するのをBoc-DL-エチルエステル体に変更して現在検討している。 (3) Gly-GlyをD-アミノ酸で置換した疼痛ペプチド・ノシセプチンの合成と活性 N末端にPhe-Gly-Gly-Pheをもつ神経ペプチド・ノシセプチンのGly-GlyをD型アミノ酸(D-Ala)で置換したアナログを合成した。その結果、誘導体はアゴニスト活性、アンタゴニスト活性とも示さず、N端側での構造変化にC端側構造が適応できないことが判明した。
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