研究課題/領域番号 |
10480152
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
研究分野 |
生物有機科学
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
下東 康幸 九州大学, 大学院・理学研究科, 教授 (00211293)
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研究分担者 |
野瀬 健 九州大学, 大学院・理学研究科, 助手 (10301334)
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研究期間 (年度) |
1998 – 1999
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キーワード | CH / π相互作用 / 酵素阻害剤 / 生理活性ペプチド / 立体制約 / コリンアミノ酸 / 分子設計 / 分子モデリング |
研究概要 |
アルキル基(CH)と芳香族基(π)の間では、水素結合様の相互作用・CH/π相互作用が形成され、タンパク質においては特有の立体構造構築に寄与していることが次第に分かってきた。本研究の目的は、こうしたアミノ酸側鎖間に形成されるCH/π相互作用をペプトドの生理活性コンホメーション固定化の新規な方法として確立しようとするものである。このため、ジペプチドLeu-Pheを取り上げ、隣接するアミノ酸の側鎖間でCH/π相互作用を形成するジペプチドを核構造とする生理活性ペプチドの創製に取り組んだ。既に、D-Lの立体配座配列をもつD-Leu-Pheが、側鎖間でCH/π相互作用を形成することが判明していたので、これを立体制約性核構造として酵素阻害剤分子設計の可能性を検討した。ジペプチドD-Leu-Pheは、イソブチル基とベンジル基の側鎖間で強いCH/π相互作用を形成するが、D-Leuのアミノ基とPheのカルボキシル基にいろいろな相互作用の構造要因を結合できる。この構造的な利点を生かし、基質特異性の異なるセリンプロテアーゼに対する活性の非常に強い特異的阻害剤の分子設計に成功した。すなわち、C末端にフェニル基を導入するとキモトリプシンを、グアニジノ基を導入するとトリプシンを阻害する特異的阻害剤を得ることができた。この結果は、核構造D-Leu-PheのC末端置換基の交換により容易に機能変換が可能なことことを意味する。さらに、トロンビンやエラスターゼなどのセリンプロテアーゼを阻害するジペプチド誘導体を得るため、さまざまなグアニジノ誘導体やtert-ブチル誘導体を導入して調べた。これらをきわめて優れて特異的に阻害する誘導体は現在まで得られていないものの、こうした分子設計法が有効であることが示された。一方、π系ベンゼン環とCH/π相互作用する構造は、窒素などのヘテロな原子に結合したメチル基の方がはるかに有利である。このため、メチルアミノ基-N^+(CH_3)_nをもつ新規なD-コリン系アミノ酸を設計し、その合成を試みた。そして、アセタミドマロン酸ジエチルエステル合成法によりn=1〜3のアミノ酸骨格の調製に成就した。しかし、高級アミン・コリン基の強い塩形成のため、水溶性がきわめて高く、現在有効な光学分割法の検討を行っている。一方、CH/π相互作用をより高効率に形成させるπ系構造要因を系統的に検索したところ、芳香族アミノ酸・フェニルアラニンのフェニル基メタ位塩素、臭素およびヨウ素原子を導入したとき、著しく増強されることが判明した。これを生理活性ペプチドに組み込んで受容体間で形成されるCH/π相互作用を検討した。その結果、フェニルアラニンが関与するCH/π相互作用においては、メタ位に臭素原子を導入すると活性を約6倍も増強できることが判明した。2年間の本研究により、ジペプチド・アミノ酸側鎖間に形成される立体制約性CH/π相互作用を核構造にした酵素阻害剤のみならず、受容体タンパク質間で形成される堅固な立体制約性CH/π相互作用を基盤にした高活性ペプチドアゴニスト、アンタゴニストの創製が可能であることが初めて明らかとなった。こうして、アミノ酸配列が新らたに判明した生理活性ペプチドについて、立体制約性の高活性誘導体設計の道が切り開かれた。
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