生体内において電子伝達や酸化反応は物質・情報変換を行う上で重要な役割を担っている。これらの機能を人工系で発現する試みとして、4α-ヘリックスポリペプチドの内部疎水場にフラビン誘導体を導入した酸化還元酵素モデルを設計合成した。このポリペプチドは、N-アルキルジヒドロニコチンアミドを酸化した。しかし、その活性はペプチドを持たないアセチルフラビンと同程度であった。界面活性剤存在下では、N-アルキルジヒドロニコチンアミドを効率よく酸化した。次にヘムタンパク質モデルとして、2α-ヘリックスポリペプチド-テトラフェニルポルフィリン鉄錯体を設計合成した。このポリペプチドは、水溶液中ではほとんどペルオキシダーゼ様活性を示さなかった。またこの反応も界面活性剤の添加が活性の向上をもたらした。以上の結果から、新規設計人工タンパク質中に機能性原子団を容易に導入する方法が提案できた。またこのような擬タンパク質の機能発現において分子の「ゆらぎ」が、基質認識や反応速度の向上に寄与していることを明らかにした。 4α-ヘリックスバンドル構造は新規設計人工タンパク質の基本構造として利用可能であることがわかった。次にポルフィリン鉄錯体を坦持したβαβα構造体を設計合成した。このβαβα構造体のペルオキシダーゼ様活性は過酸化物の疎水性に依存し、過酸化脂質と構造体内部疎水場との親和性が活性に関与することが示された。また活性はpH依存性を示し、イミダゾールのプロトン化が反応を促進していると考えられる。さらにチトクロムP-450様酸素化反応を試みると、チオアニソールをスルホキシドへと変換した。この酸素化反応も酸性〜中性pH領域で高活性を示した。 4α-ヘリックスバンドル構造体やβαβα構造体といった「新規設計人工タンパク質」は、目的とする機能性原子団をアミノ酸側鎖官能基として坦持させることにより機能発現が可能である事を示した。
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