視覚の発現およびこれに関する情報伝達経路は極めて複雑で未解明な部分が多い。視覚細胞中において11Z-レチナールはアポ蛋白質であるオプシンと結合しロドプシンを形成する。続いてロドプシンが光異性化により構造変化を引き起こし、そしてこれが視覚発現のきっかけをつくると考えられそいる。これらの機構解明には受容体蛋白質の精製に加えて、立体化学的に純粋な11Z-レチナールおよびその誘導体の合成化学的供給が不可欠である。しかしながら11Z-レチナール構造のような共役したポリエン炭素鎖中に存在するZ型アルケンは極めて異性化しやすく、その合成法は限られている。本研究では、炭素鎖が共役した不飽和アルデヒドから二段階で立体選択的にZ型ブロモアルケンに導く方法を確立し、Z型アルケンを含むポリエン合成に応用した。そして、このZ型アルケンの選択的合成法を利用して、立体化学的に純粋な11Z-レチナールの合成を行うことが出来た。すなわち、Z型ブロモアルケンの合成法を用い(12Z)-12-プロモテトラエン体を合成し、これに対して鈴木カップリング行うことにより、異性体を分離することなく、世界で初めて純粋な11Z-レチナールおよびその誘導体の合成に成功した。
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