研究概要 |
細胞内蛋白質輸送シグナルのひとつ、チロシン・シグナル(YXXφ,φは疎水性側鎖を持つアミノ酸)はエンドサイトーシス、リソソームへの局在、トランスゴルジ網への局在など、複数の細胞内輸送系に関与することが知られている。チロシン・シグナルを持つ蛋白質は、輸送小胞の被覆成分であるAP複合体μ鎖と結合することにより輸送小胞に取り込まれる。しかし、どのようにして上記のような複数の蛋白輸送系を制御しているのか、すなわち輸送特異性の分子機構は明らかではない。そこで、APμ鎖ファミリー分子とチロシン・シグナルとの相互作用を解析することにより、選択的蛋白輸送のメカニズムを明らかにすることを目的として研究を進めている。 チロシンと疎水性アミノ酸残基以外の位置をランダム化したXXXYXXφライブラリーを用いて各μ鎖にどのようなチロシン・シグナルの配列を検討した.その結果、それぞれのμ鎖はチロシン以外のアミノ酸の異同により、それそれ異なるチロシン・シグナルのサブセットと高親和性に結合することがわかった。このμ鎖とチロシン・シグナルの結合特異性が、チロシン・シグナルによる輸送特異性の少なくとも一部を規定していると考えられる(Ohno,H.et al.J.Biol.Chem.1998.)。 申請者らが最近同定した新たなAP(様)複合体AP-3は、主としてエンドソームに分布すること、またyeastの.AP-3ホモログの液胞輸送への関与が示唆されていることなどから、エンドソームからリソソームへの輸送に関与している可能性がある。そこで、XXXYXXφライブラリーで得た結果をもとに、μ3Aに結合するクローンとしないクローンをそれぞれ数個ずつ単離し、その配列をIL-2受容体α鎖(Tac)の細胞質領域に付加したキメラ蛋白を作製し、これらを安定に発現したHeLa細胞を得た。これらの細胞を用いて、キメラ蛋白の細胞内局在や動態を検討中である。
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