研究概要 |
ミトコンドリアタンパク質の多くは,サイトゾルで前駆体として合成された後,ミトコンドリアに移行する。プレ配列を有する前駆体は,ミトコンドリア外膜と内膜の膜透過装置の働きで,外膜と内膜を通過して,マトリクスまたは内膜に移行する。ADP/ATPキャリア(AAC)などのキャリアタンパク質はプレ配列を持たないかたちで合成され,外膜のみを通過して,内膜に組み込まれる。本研究では,部位特異的に光架橋性の非天然アミノ酸を導入した前駆体を用いて,タンパク質複合体であるこれらの膜透過装置との相互作用の解析を行い,タンパク質のミトコンドリア膜透過の仕組みを明らかにすることをめざした。 プレ配列を有する前駆体pSu9-DHFR前駆体と膜電位を消失させたミトコンドリアをin vitroでインキュベートすることによりミトコンドリア外膜透過反応中間体を生成した。続いて消失させた膜電位を復活させることにより,外膜膜透過反応中間体の内膜通過を促し(チェイスし),外膜のTOM複合体から内膜膜透過装置(TIM)への前駆体タンパク質の移行に関わる因子の解析を行った。TOMの膜間部側にはプレ配列結合部位(トランス部位)があり,このトランス部位/近傍にTom40,Tom7,Tom22のC末端側部分が存在することを光架橋反応により見いだした。さらにTom22のC末端領域とTom7を二重欠失したミトコンドリアでは,プレ配列のトランス部位への結合は正常であるが,それ以降の内膜通過のステップに欠損があることを見いだした。したがってTom22のc末端領域とTom7は,トランス部位に結合したプレ配列部分をTIM複合体に受け渡すステップに関わることが明らかになった。これまで外膜から内膜への前駆体の移行の仕組みはほとんど分かっていなかったが,この仕組みを解明する足掛かりが得られたことになる。
|