研究概要 |
大腸菌ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)には活性部位Met20を含むループ以外に大きくゆらいでいる3つのフレキシブルループが存在する。本研究ではこれらのループが構造のゆらぎや機能発現にどのような役割を演じているかを解明するため、それぞれのループ中で最もゆらぎの大きい Gly67,Gly121,Ala121の変異体を作製し、その構造安定性・酵素機能・圧縮率・X線結晶構造を調べた。145位変異体(A,T,R,G,S,H,V,F)では酵素活性に大きな影響は与えなかったが、その構造安定性は導入アミノ酸の疎水性が増すほど低下した。このような逆疎水性効果は、この部位の側鎖が分子表面に露出しているため、未変性状態に比べて変性状態の化学ポテンシャルの増加が小さいためと考えられた(J.Biochem.123,839(1998))。67位と121位での二重置換体では、ほとんどの変異体で構造安定性と活性に加成性が見られなかった。両部位のα炭素間距離は27.7Åも離れていることから、これらの部位でのアミノ酸置換の影響は長距離にまで及んでおり、分子全体のゆらぎを変化させていることが示された(J.Biochem.123,33(1998))。これらの点を確認するため、各変異体の断熱圧縮率β_sを測定したところ、1アミノ酸置換によりβ_sは大きく変化することを見出した。67位変異体G67A,G67V,G67LのX線構造解析の結果、67位ループの温度因子が変化するだけでなく、他のループの温度因子も変化しており、分子内キャビティーの数・体積も圧縮率変化に対応して変化することがわかった(論文作成中)。これらの結果は、アミノ酸置換による局所構造の違いが、分子全体の構造のゆらぎに影響を及ぼしていること、また、本酵素の機能発現にフレキジブルループが重要な役割を演じていることを示している。
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