研究概要 |
大腸菌ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)の酵素反応中間体として存在する種々のリガンド複合体の断熱圧縮率を測定した結果,基質と補酵素の結合・脱離にともなって構造の揺らぎが大きく変化し,その変化量はX線結晶構造から得られた分子内キャビティー量と良い相関がることを見出し,キャビティーが揺らぎと機能の発現に重要な役割を演じていることがわかった(Biochim.Biophys.Acta,1478,257(2000))。DHFRの3つのフレキシブルループ中に存在する,Gly67,Gly121,Ala145を種々のアミノ酸に置換したところ,圧縮率が大きく変化しており,わずか1アミノ酸置換により構造の揺らぎが影響を受けることがわかった。また,圧縮率の大きい変異体ほど酵素活性が上昇することから,構造の揺らぎが機能発現に有利な作用していることがわかった(J.Bjochem.,128,21(2000))。これらの変異体のX線構造解析を行った結果,変異部位から遠く離れた部位の温度因子やキャビティー分布が変化しており,圧縮率の小さい変異体ほどキャビティー量が少ないことがわかった。この結果は,アミノ酸置換の影響が原子のパッキング状態の改変をとおして分子全体の揺らぎに影響を及ぼしていることを示している(論文作成中)。また,G67A変異体の低温X線構造解析より,温度の低下に伴いループ部分の温度因子が大きく減少することを見出した(論文作成中)。DHFRの葉酸複合体の構造に及ぼす圧力の効果を,高圧NMRを用いて3000気圧までの圧力範囲で測定した。その結果,補酵素(NADPH)の結合ドメインを含むヒンジ領域とフレキシブルループ領域が圧力により敏感に影響を受け,2つのコンフォマー間の平衡が圧力により影響を受けることがわかった(Biochemistry,39,12789(2000))。
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