研究概要 |
既知の膜貫通型チロシンホスファターゼPTPεMに加えて,細胞質性の分子種PTPεCの存在を明らかにし,両者は,同一遺伝子の互いに異なるプロモーターにより転写が調節されていることを明らかにした。PTPε遺伝子は,PTPεMとPTPεCの間でエキソン5以下は共通で,PTPεMはエキソン1,2,3,5,PTPεCはエキソン4,5から成り,エキソン2と4にそれぞれ翻訳開始点がある。また新規の分子種PTPεCの過剰発現が,M1白血病細胞のIL-6(およびLIF)誘導性の増殖抑制やアポトーシスを強く負に制御することを明らかにした。マクロファージ分化マーカーのCD16の発現誘導も強く抑えた。この条件下で,Stat3のリン酸化を強く抑えるが,egr-1の上昇は抑えず,PTPεCの作用がJak下流系に限局されている。新規の二重基質特異性ホスファターゼの1分子種を見出し,TMDPと命名した。TMDPは22.5kDaでアミノ酸198個をコードする。低分子量ホスファターゼVHRと45.5%の相同性を示した。TMDPは精巣および骨格筋に限局して発現し,減数分裂の時期に特異的に発現されることを見出した。また活性中心近傍のセリン残基がアラニン残基に変異している疑似DSP分子種を新たに見出した。内因性の核性PP1インヒビターNIPP-1が肝癌で悪性度に比例して上昇すること,またNIPP-1が3種のPP1イソフォームに同程度の親和性で複合体を形成することを明らかにした。ホスファターゼ阻害物質トウトマイシンの右翼のスピロケタールにアポトーシス誘導能があることを見出し,その誘導体を合成し,そのC8にベンジルオキシメチル基のついた構造にさらに強いアポトーシス誘導能を見出した。以上の実験結果により,ホスファターゼの分子種・構造・調節に新知見を加えることができた。
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