研究概要 |
ラット肝細胞内でミトコンドリア(Mt)とペルオキシソーム(Ps)に二重局在するセリン:ピルビン酸アミノ転移酵素(SPT)のオルガネラ移行シグナルを解析した。さらに両オルガネラ移行配列(Mt移行配列,MTS,とPs移行配列,PTS)を同一分子内に含むMt移行型酵素前駆体の選択的Mt局在の分子機構を解析した。 1.各オルガネラ移行配列の解析---N末のMTSの標的機能にはMTS22アミノ酸の全体が必要であることが判明した。SPTのPTSは尿酸酸化酵素などのもつ典型的なPTSlとは異なり、C末3アミノ酸以外の配列も標的機能に必要であることが示された。 2.MTSの有無が蛋白質の高次構造に与える効果---Mt蛋白質前駆体は変性状態でMtへ運び込まれ、一方、Ps酵素は成熟型で、しかも折り畳まれた状態でPs膜を通過するといわれている。MTSの有無で高次構造に違いが出るのかどうかをプロテアーゼに対する感受性で解析した所、MTSを含む前駆体酵素は含まない成熟型酵素に比べ、格段にプロテアーゼ感受性が高いことが示された。 3.SPTのMTSと他の酵素のPTSとの関係---MTSによるPTSの抑制が他のPs酵素のPTSに対しても見られるかどうかを調べるために、MTSを含むN末端側をSPTに、C末端側をPTS1を含む尿酸酸化酵素にしたキメラ蛋白質を作製し、in vitro Ps取り込み系でPTS機能の抑制の有無を解析した。その結果、尿酸酸化酵素のPTS1のPs標的機能もSPTのMTSの付加により抑制されることが示され、MTSによるPTS機能の抑制はSPTに限った特殊な現象ではないことが示された。 以上より、PTSの機能発現には蛋白の折り畳み(特にC末付近の)が必要と思われ、MTSの存在が蛋白質の変性、PTSの抑制、そしてMtのみへの選択的輸送を引き起こすと考えられた。
|