本課題においては、胃のプロトンポンプ(H^+/K^+-ATPase)およびホスファチジルセリン依存性P型ATPアーゼ(フリッパーゼ)に注目した目標を設定しているが、本年度は以下の二つの研究に進展が見られた。 (1) これまで、プロトンポンプの高発現系構築を目指した研究は世界的に困難を極めている。その理由として考えるられるのは、胃酸であるHClの分泌がプロトンポンプとCl^-チャンネルの協調的な作用でおきていることである。そこで、胃に発現するCl^-チャンネルを同定し、その機能をプロトンポンプとの関連で捉える実験を計画した。最初の手掛かりとして、Na^+/K^+-ATPaseやCa^<2+>-ATPase(筋小胞体)で協調的な作用が提案されている、それぞれγサブユニットおよびphospholemanに類似の蛋白質(Cl^-チャンネル活性を持つ)をホモロジークローニングした。二つの蛋白質のアミノ末端側は相同性が高いので、この部位に着目しPCRプライマーを作成した。ブタの胃粘膜cDNAより特異的に増幅した300bP程のDNA断片配列決定を行った結果、88残基からなる1回膜貫通型ポリペプチドをコードしていることがわかった。このポリペプチドは乳癌細胞で見つけられたものと同じであったが、Cl^-チャンネル活性を持つため、胃粘膜でこのものがどのような役割を果たしているか興味深い。 (2) プロトンポンプの高発現系構築がうまくいかない理由のもう一つの可能性として、壁細胞機能をもった細胞株を用いていないことがある。種々特異的な細胞内要素が壁細胞に存在し、それらがプロトンポンプの高発現に役割を果たしている可能性は否定できない。これまで、壁細胞機能をもった細胞株は得られていない。そこで、SV40T抗原トランスジェニックマウスより胃粘膜上皮細胞を得て、壁細胞機能を有する、もしくは壁細胞に分化できるような細胞株を樹立することを計画した。現在までに、マウス反転胃を調製して粘膜細胞を培養する方法論を確立することができた。
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