1)胃のプロトンポンプを安定発現させたCHO-K1細胞を構築し、ウアバイン存在下にプロトンポンプがナトリウムポンプの代わりに働きうることを示した。両ポンプの構造の類似性からも妥当な結果である。このような細胞は消化器潰瘍薬の評価系として利用でき、改良する余地はあるが意義深い結果である。 2)胃に高発現するブタMat-8の一次構造を決定し、粘液分泌細胞に主に発現していることを示した。Mat-8は1回膜貫通型蛋白であり、胃における胃酸(塩酸)分泌時のCl^-輪送や粘液分泌に果たす役割が興味深い。ナトリウムポンプではMat-8に類似のサブユニットが細胞内ソーテイングや活性制御に関わっている。Mat-8のC末側に赤色蛍光蛋白を融合した形でCOS1細胞に導入した結果、小胞体及びそれとは別の細胞内小胞に発現が見られた。Mat-8は小胞輸送に関係する細胞内膜系に局在し、相互作用する分子や細胞内情報伝達系の作用により細胞膜へ移行し、イオン輸送の制御を行っている可能性がある。プロトンポンプがMat-8と似たどのような分子と相互作用しているのか、また、Mat-8がどのようなP型ATPアーゼと相互作用しているのかを解明するため、酵母ツーハイブリッド法による検討を進め、Mat-8の細胞内領域と相互作用するクローンを複数個得た。これらのcDNAがどのような蛋白をコードしているのかが大変興昧深い。 3)プロトンポンプのK^+親和性について、ラットとブタのαとβサブユニットを用いハイブリッド解析を行った。昆虫細胞に発現させた酵素を用いて、リン酸化中間体(EP>の存在量とK^+濃度との関係を調べると、ラットβサブユニットを持つαβ複合体の場合に低濃度のK^+でEPが分解した。αサブユニットに比べβサブユニットは種間での保存性がやや低い。βサブユニットの種による配列の違いがK^+感受性の差を決定していることが示唆された。
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