研究概要 |
最近、スフィンゴ糖脂質がコレステロールとともに細胞膜上で集合してミクロドメイン(ラフト)を形成し、そこに外側からはGPIアンカータンパク質が、内側からはsrcファミリーキナーゼが脂肪酸修飾を介して局在してシグナル伝達の中継点として働いていると考えられている。我々はこれまで神経系におけるガングリオシドの機能解明を目的にガングリオシドと会合する分子の解析をすすめてきた。本研究では、GPI型神経接着分子を介するシグナル伝達にガングリオシドが密接に関わっていることを明らかにした。 ラット小脳初代培養細胞を抗ガングリオシドGD3抗体で免疫沈降すると、GPIアンカー型神経細胞接着分子TAG-1、srcファミリーキナーゼLynが共沈することを見いだした。TAG-1とLynの相互作用が生理的に機能しているか否かを明らかにするために、小脳初代培養細胞を抗TAG-1抗体でクロスリンク、またはTAG-1リガンドであるホスファカンを添加した。その結果、Lynが活性化し80kDaタンパク質(p80)のチロシンリン酸化がおこった。さらに、TAG-1クロスリンクによるp80のチロシンリン酸化は、srcファミリーキナーゼ選択的阻害剤、およびシクロデキストリンによるコレステロールの除去で抑えられた。密度勾配遠心でTAG-1,Lyn,p80はラフト画分に回収された。これらの結果はTAG-1の接着シグナルがラフトにおいてLynを介しp80へ伝達されることを示している。興味深いことに小脳初代培養細胞を抗ガングリオシドGD3抗体でクロスリンクしても、同じ反応がおこった。さらに小脳初代培養細胞表面のスフィンゴ糖脂質糖鎖をエンドグリコセラミダーゼにより特異的に除去すると、密度勾配遠心におけるTAG-1の分布が変化し、TAG-1クロスリンクによるLynの活性化、p80のチロシンリン酸化がおこらなくなった。これらの結果はTAG-1のラフトを介するシグナル伝達にスフィンゴ糖脂質が重要な役割を果たしていることを示す。
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