モータータンパク質であるミオシンの頭部(S-1)は、ATPを加水分解して得た化学エネルギーを力学エネルギーに変換してアクチンフィラメント上を滑り運動する。ATPとアクチンの両結合部位間の通信経路となる領域には、反応性の高いシステイン残基のCys-707(SH1)がある。さらにSH1の近くにはSH2と呼ばれるシステイン残基(Cys-697)があり、これを取り囲んで疎水領域が形成されている。しかしながらこの疎水領域がS-1のモーター機能へどのように関わっているのかは、現在でも不明である。本研究ではこの点を明らかにする目的で、まず最初の一年はSH2を立体構造変化検出用蛍光プローブで標識することを試みた。 さまざまな試薬を検索した結果、アクリロダン(AD)が目的に最適であることがわかった。S-1にADを反応させ、(1)ATPase活性の変化、(2)減少したCys残基の定量、(3)CNBrやヒドロキシルアミンで化学的に分解された蛍光標識物の分析、の三点をチェックした。その結果、非常に好都合なことに、ADはSH1とは全く反応せずSH2とだけ反応することが明らかになった。SH1を特異的に標識できる蛍光試薬はこれまでにいくつか知られているが、SH2を特異的に標識できるものは全く知られていなかった。 ADのもつ蛍光団は環境変化に非常に鋭敏に対応して蛍光色を変えることがわかっている。二年目には、AD標識S-1にATPやアクチンを結合させ、その時に観察される蛍光変化を基にして問題の疎水領域の構造変化を検出する予定である。
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