モータータンパク質ミオシンの頭部(S-1)のSH1(Cys707)の近くには疎水性のアミノ酸残基が偏在する領域(疎水領域)がある。この疎水領域にはSH2と呼ばれ別のCys残基(Cys697)が存在し、SH1とSH2はGly699で隔てられている2つのα-へリックスにそれぞれ含まれている。一方、ミオシンがモーター機能を発現するときにS-1の軽鎖結合領域が"レバーアーム"として働き、ATPとアクチン両結合部位で起きる構造変化を増幅して互いに伝えることが示唆されている。このレバーアームの支点はSH1-SH2領域の近くにあると考えられているが、レバーアームの動きにカップルして両残基周辺にどのような構造変化が誘起されるのかはほとんどわかっていない。 本計画では、SH1とSH2に構造変化に鋭敏に感応する蛍光団が標識されたS-1(それぞれBD-S-1とAD-S-1)を調製する方法を確立した。このような標識S-1を用いると、標識されている蛍光団は全く同じなので、標識蛍光団の物性や分子サイズの違いを考慮する必要がなく、両残基周辺で起きる構造変化の直接的比較が可能になる。 AD-S-1とBD-S-1の蛍光スペクトルの強度や半値幅の測定、KIによる蛍光消光実験から、ATP加水分解中のSH2周辺の構造変化はSH1に比べてほとんど正反対であることがわかった。SH2を含む疎水領域は補強されるのに対してSH1を含むへリックスはむしろほどけてしまうことが示された。 以上の結果から、SHIの近くにある疎水領域はS-1のレバーアームの支点を補強するという重要な役割を担っていることが示唆された。
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