今年度は特に2つの蛋白質に焦点を合わせて研究を行った。即ち、尾部基盤蛋白質でリゾチーム活性を持つティルリゾチームと尾繊維及び小尾繊維の形成に必須な分子シャペロンgp57Aである。前者については以下のことが明らかになった。ティルリゾチームは分子量6万3千の前駆体として合成される。大量発現系を構築して同蛋白質を調製したところ、期待通りの分子量の蛋白質が合成されたが、この前駆体は80%以上が切断を受け、2つの断片を生じていた。これらの蛋白質をSDS電気泳動により分離してアミノ酸配列分析を行った結果、この切断部位は351残基目のC末端側であり、感染時におこるプロセッシングと同部位であることが分かった。さらに、前駆体C末端ペプチドに対する抗体を作成して切断されるC末端領域を調べた結果、C末端領域は切断後も基盤構成成分として基盤内に留まることが分かった。現在、テイルリゾチームは共同研究者である米国オレゴン大学のBrian Matthews教授の研究室で結晶解析が進んでいる。他方、もう一つの基盤構成成分であるgp27を単離精製する過程で、この遺伝子産物がテイルリゾチームと結合して複合体を形成することが分かり、この複合体についてもBrian Matthews教授の研究室において構造解析が開始されることになった。分子シャペロンgp57Aについては、これまでに以下のことが明らかになった。本タンパク質は円2色性(CD)スペクトルによれば約94%がαヘリックスからなり、沈降平衡法に基づく超遠心分析の結果、4量体を形成していることが明らかである。gp57Aは熱変性やグアニジン塩酸などの変性剤による変性がきわめて可逆的であり、示差走査型微少熱量測定(DSC)および円2色性(CD)により、1つの中間体を経る三状態転移が観測された。
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