研究概要 |
タンパク質中電子移動は光合成やミトコンドリアでのエネルギー変換で極めて重要な反応である。この電子移動はトンネル効果によって起こる。電子はタンパク質中のどのような経路を辿ってドナーサイトからアクセプターサイトにトンネル移動するのか,また、電子移動経路の制御はどのようにして行われるのか,等が現在重要な課題になっている。 私達はタンパク質中の任意の原子対間を流れるトンネル電子流密度を求め、その中で大きなトンネル電子流密度に沿って電子移動経路が形成されていると言うアイデアをもった。そのためトンネル電子流密度の大きさをextended Huckel法で計算する手法を開発した。タンパク質としてHarry Grayらが実験で用いたと同じく、ヒスティジンにルテニウム錯体を配位した6種類の修飾アズリンを用いた。それぞれのタンパク質で、規格化したトンネル電子流密度(0.1以上)の大きさに比例した太さを持ち方向性を示す矢印で全て書きこんだ。その結果、電子移動経路は直接の化学結合部分を通るのみならず、化学結合の無い原子間をジャンプする経路も多数見られた。この微視的データを用いて、次のような手順で疎視化した。ドナーとアクセプターを結ぶ直線に垂直に数多くの平面をはめ込み、その平面を横切るトンネル電子流の位置を記し、各平面毎に重心と分散を計算した。それらの重心を結びそれに分散の幅をつけた筒状の物を得る。これが疎視化した電子トンネル経路である。その形は虫のようであるのでwormと名づけた。wormの重心線の長さは直線の長さにくらべて1.2から1.3倍程度であり、余り大きく湾曲はしていない。すなわちボンドの無いところもトンネル電流が流れ、電子移動経路が余り長くならないように最適化されている。
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