血管内皮細胞は一般的に紡錘形を呈し、血管走行に対してその長軸を平行に配列している。この形態や配列は血流に対する機械的低抗を激弱し、内皮細胞の血管壁からの剥離を防ぐという大切な意義がある。これまでに拍動による血管周方向の周期的一軸伸展刺激がこのような特徴的形態や配列(伸展軸に垂直な紡錘形と配列)を導くことが分かっている。本研究の最終目的は、培養内皮細胞に周期一軸伸展刺激を与えて導かれる形態配列応答の分子機構の全容を明らかにすることにある。我々はこれまでに、伸展受容体(SAチャネル)と細胞内Ca^<2+>の関わりを中心に解析を進め、{伸展刺激→SAチャネル活性化→細胞内Ca上昇→カルシニューリン活性化→srcの脱燐酸化とその活性化→接着斑蛋白質チロシン燐酸化→接着斑と細胞骨格の再編成→形態応答}という細胞内シグナルカスケードの存在を明らかにしてきた。本研究では、特に細胞形態の極性(伸展軸に対して垂直に配列する性質)の起源を探って、以下の結果を得た。その結果、1)伸展刺激の2ndメッセンジャーである細胞内Ca^<2+>は空間的に均一に上昇し、伸展刺激の方向(極性)をコードする可能性は低い。2)伸展刺激で上昇する細胞内cAMPは形態応答には直接には関与しない。3)これに対して細胞骨格(ストレスファイバー)は形態応答に先行して伸展軸に配向することが分かった。4)そこで、直接伸展刺激を受容して細胞骨格と連結するインテグリンが、刺激の極性をコードする受容体である可能性が出てきた。5)この可能性を検討するために、インテグリンをライブ標識し、その動態を高精細に観察する近接場顕微鏡システムを開発した。6)これによってインテグリンが活発に移動・代謝することが分かった。今後このシステムを用いて伸展刺激下でのインテグリンの動態を解析し、上記の仮説を検討する予定である。
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