生体分子モーターの分子レベルでの機構解明を目的として、生体分子1個を生きたまま捕まえ操作する新しい技術を開発した。生体分子間の相互作用は、ピコニュートンのオーダーであるので、サブピコニュートン分解能の力計測が要求された。サブピコニュートン分解能は、0.lpN/nmの超高感度カンチレバーを製作する事により実現した。これは、市販のAFM(原子間力顕微鏡)の約100倍以上の高感度である。また、水溶液中で、分子1個を蛍光顕微鏡を使って直接観察するために、対物レンズ型全反射照明による蛍光1分子イメージング法を開発した。全反射により生ずるエバネッセント場(表面からの深さ約150nmの局所領域のみを照明する)で蛍光を励起する為、非常に良いコントラストの蛍光像が得られる。当方法は、光学系が比較的簡単である、落射照明との切り替えが極めて簡単である、試料厚みに制限が無い、プローブ顕微鏡で初めて蛍光1分子イメージングが可能となったという特長を持つ。汎用的な方法であり、今後の広い使用が期待されている。 アビジン・ビオチン系を使って、タンパク質を生きたまま表面に固定する方法を確立し、先端の曲率半径が約17nmのZn0ウィスカーをプローブとして使い、タンパク質1分子の捕捉を実現した。この方法で捕捉したミオシン頭部1分子が、ATP存在下でアクチンと相互作用して発生する力を計測する事に成功した。分子サイズ(20nm)を越えるスパイク状の変位が観測された。しかも、この大きな変位は、1個のATP加水分解中に5.3nmのステップが複数回起こって実現している事が発見された。 この新しい技術の開発は、分子間相互作用を1分子で直接計測でき、生体分子モーターのみならず様々な生体分子の分子機構を解明するうえで、画期的なものである。
|