研究概要 |
新しく開発した1分子捕捉操作技術により,ミオシン頭部1分子を微小ガラス針先端に捕捉し、アクチン・フィラメントと相互作用して進む様子を直接計測することが可能となった.ATP存在下での相互作用により台形状の変位が引き起こされるが、ミオシン頭部がアクチン上を動くのは,台形状変位の立ち上がり部分である.この立ち上がり部分を詳細に解析したところ,ステップ状(階段状)の変位が発見された.ATP濃度(0.1μMまたは1μM)や温度(20℃または27℃)を変えても,ステップ状の変位が観察された.このステップに大きさの周期性があるかどうかを統計的に解析したところ,約5.3nmの単位周期があることがわかった.また,わずかではあるが,逆向きステップも確認された.1回の変位で何回のステップが起こるのかを数えると,1変位あたり1〜5回のステッフを踏んでいて,平均で2.5ステップしていることがわかった. ステップの時間間隔の平均は,1μMATPで5ms,0.1μMの時3msとなって誤差の範囲で一致し,ATP濃度に対して依存性がなかった.また,台形状変位とATP分解が1:1に対応すると仮定すると,台形状変位の継続時間と,溶液中で測定されたアクチン・ミオシンとATP結合の2次の反応定数が一致した.このことから,ミオシン頭部1分子が,1回のATP加水分解中に複数回の力学的ステップを行うことが結論づけられた. この結果は,確率的な分子機構であるルースカップリング説の初めての直接証拠である.
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