大腸菌では唯一のAAAタンパク質、FtsHを研究し、これが細胞増殖に必須のAAAプロテアーゼであり、特異的基質を分解して細胞機能を調節することを明らかにしてきた。熱ショック応答の制御機構、特にDnaKシャペロン系とFtsHの協調的制御機構について解析し、DnaKシャペロン系がFtsHによるσ^<32>の効率的な分解に必要で、これはσ^<32>の構造変換である可能性を強く示唆する結果を得た。FtsHはリポ多糖合成酵素の一つLpxCを分解して膜脂質成分の生合成を調節することを明らかにした。ftsHが欠損するとLpxCが増加し、結果としてリポ多糖が過剰生産される。このため、ペリプラズム空間に異常な層状の膜が形成され致死となる。リン脂質の合成を上昇させるような変異によって、ftsH欠損による異常な膜形成と致死作用は抑制された。おそらく膜の異常に起因すると思われるが、温度感受性ftsH変異株において、増殖可能な温度でミニFプラスミドの分配異常を観察した。また、コリシン寛容性とFtsHの関係についても解析した。FtsHの構造と機能の関係について、膜貫通領域・ペリプラズム領域の機能を解析し、これらの領域(特に2番目の膜貫通領域)がFtsHのオリゴマー形成に重要であることを明らかにした。AAA ATPaseを特徴づけるSRH領域についての系統的なアラニン置換変異体から得られた結果と構造モデリングから、SRHで保存されたアミノ酸残基がオリゴマーを形成する隣のサブユニットに結合したATPの加水分解に重要であるという「分子間触媒モデル」を提唱した。基質タンパク質がリング状のオリゴマーの中央の穴を通過する「糸通しモデル」はAAA型シャペロンが基質タンパク質をアンフォールドする機構をうまく説明できる。そのほか、ドメイン構造がAAAタンパク質と類似したAAA^+タンパク質の一つRuvBの機能素子の予測を行い、AAAとAAA^+の類似点と相違点を明らかにした。
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