本研究では家族性アルツハイマー病(FAD)の原因遺伝子プレセニリン(PS)1と2が、βアミロイドの中でも凝集性の高いAβ42分子種の産生を亢進する分子機構について、特にPS代謝との関連に着目して分子細胞生物学的に検討した。まずFAD変異を持つフラグメント型PSを発現させてもAβ産生に影響を与えないことを示した。またこれらは全長分子から生じたフラグメントと異なり、安定化されていなかった。そこでFAD変異によるAβ42産生上昇を指標としてその機能ドメインを検索し、最C末端のアミノ酸の疎水性が重要であることを見出した。同時にPS蛋白の代謝を検討すると、FAD変異によるAβ42産生上昇能を失っている最C末端改変PS分子は安定化・限定分解を受けなかった。従ってPSの最C末端近辺の構造はその正しい代謝、アセンブリーに必須であり、PSの機能に重要と考えられた。さらにC末端近位部に高度に保存されている配列(Pro-Ala-Leu-Pro)が存在することを見出し、この近辺の配列をPALPモチーフと名付けた。そこでPS2にP414L変異を導入し、その機能・代謝に与える影響を検討した。P414L変異体は安定化・限定分解を受けず、また高分子量複合体を形成していなかった。以上の結果から、PALPモチーフはPSの代謝・機能に重要な役割を果たすドメインであり、PSホモログの変異体が機能欠失型の表現型を示す機序として、安定化・高分子量複合体形成機構の異常を考えた。以上の結果がら、PSは新規合成された後にC末端部分の正しい構造を介してlimiting cofactorと相互作用し、高分子量複合体を形成して安定化され、γ切断に影響を与えるものと考えられた。
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