研究概要 |
本年度はDP5のヒト神経疾患における関与について主に検討を加えた。方法はDP5遺伝子のヒトホモログであるHarakiri遺伝子(以下Hrk)の遺伝子プローブ及びHrk蛋白に対する抗体を用いて剖検組織におけるHrkの動態について検索した。ヒト神経疾患のうち,脊髄前角細胞が特異的細胞死を起こすことで知られている筋萎縮性側索硬化症(以下ALS)の症例(4症例)とくも膜下出血など他の死因で亡くなった症例(4例)の剖検組織を用いてまずTUNEL染色により脊髄前角領域でアポトーシスが起こっているか否かを検討したところ対照組織では染色陰性であるのに対し,ALS症例では4例とも前角細胞にTUNEL陽性反応が認められた。次にこのサンプルでHrkの遺伝子,蛋白発現をin situ hybridization法と免疫組織化学法を用いて検索したところ,ALS症例ではいずれも脊髄前角細胞に陽性反応が認められた。Hrk蛋白の発現をWestern Blot法を用いて確認したところ,免疫組織化学法の結果とよく一致してALS症例のサンプルにおいて約18kdの分子量のバンドが検出された。DP5/Hrkは前年までの検討でBH3ドメインを介してアポトーシス抑制性Bcl-2ファミリーメンバーと結合することが判明している。この現象がヒト組織でも起こっているか否かを免疫沈降法を用いて検討した。ヒト剖検サンプルと抗Hrk抗体とを反応させた後に遠心沈降物を電気泳動した後に抗Bcl-XL抗体でWestern Blot反応させたところALS症例でのみBcl-XLの陽性反応が観察された。これはヒトALS組織においてHrk蛋白がアポトーシス抑制性のBcl-XL蛋白と結合して存在していることを示している。以上の事実はヒト神経難病においてBH3only蛋白であるDP5/Hrkが発症,細胞死に関与していることを示唆しており,今後治療などへの応用の可能性が考えられる。
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