今年度は、てんかん発作におけるグリア型グルタミン酸トランスポーターGLT1、神経型グルタミン酸トランスポーターEAAT4の役割を中心に解析した。 1)GLT1欠損マウス、致死性の自発てんかん発作により、12週齢までに約80%が死亡してしまう。てんかんの発作パターンはNMDAを皮下注した時に観察される発作と類似しており、突然ケージの中を走り回り反弓緊張様姿勢をとり、パタッと死んでしまう。この致死性てんかん発作の発生機序を解析するため、海馬スライス標本を用いて、グルタミン酸シナプス伝達を電気生理学的に調べた。海馬のCA1錐体細胞で記録されるシェーファー側枝による興奮性シナプス後電流(EPSC)には、AMPA受容体を介するEPSCとNMDA受容体を介するEPSCの2種類がある。各々の成分の時間経過を欠損マウスで調べたところ、野生型と差はなかった。また、EPSCのNMDA受容体を介する成分とAMPA受容体を介する成分の振幅の比を調べると、野生型に比べ欠損マウスではNMDA受容体を介する成分が増大していた。さらにGLT1欠損マウスでは、静止時細胞外グルタミン酸濃度が上昇しており、長期抑制は正常であるが、長期増強が起こりにくくなっていることがわかった。以上のことから、GLT1欠損マウス海馬のグルタミン酸作動性シナプスにおいて、EPSCのカイネティクスに変化はないが、シナプス間隙からのグルタミン酸除去能が低下しており、静止時細胞外グルタミン酸濃度が上昇し、EPSCのNMDA成分が増大・長期増強の誘導阻害が起こっていることがわかった。これらのシナプス伝達異常が、どのように致死性・自発性てんかん発作発現に結びつくかは今後の課題である。 2)EAAT4欠損マウスに明かな異常はなく、自発性てんかん発作・PTZ誘発性てんかん発作に対する感受性亢進は観察されなかった。
|