音は内耳基底膜で周波数弁別を受け、有毛細胞で電気信号に変換された後、聴神経によって脳幹の蝸牛神経核に伝達され時間および強度の情報が抽出される。ほ乳類では蝸牛神経核は背側核と腹側核に大きく分かれる。また、聴神経は蝸牛神経核内で分枝し幾つかの亜核に至る。特に前腹側蝸牛神経核では杯型のシナプス前終末を形成し、音の位相情報が抽出される。一方鳥類では角状核と呼ばれる蝸牛神経核の亜核が発達し、音の強度情報が抽出される。本研究では聴神経からの音情報のこうした特徴抽出機構がシナプスのどのような形態、伝達特性およびシナプス後細胞の膜興奮性によって実現されるかを明らかにしたものである。位相情報をコードする鳥類の神経核大細胞核では閾値の低いK+電流と閾値の高いK+電流が共存し、神経細胞の位相応答性を実現している。それに対して角状核では音圧は活動電位の頻度として符号化される。角状核にはSKタイプのCa2+依存性K+チャネルが存在し、入力信号強度に対するdynamic rangeが増大させている。さらに、シナプス前終末も抽出される特徴に応じた分化をし、位相応答特性は大量の伝達物質の放出を行うシナプスで実現し、強度情報は比較的少量の伝達物質を放出するシナプスで実現されている。さらに位相応答特性を持つシナプスでは巨大なシナプス前終末が細胞体上に形成され、強度情報を抽出するシナプスでは多数の小型のシナプス前終末が形成されている。したがって特徴抽出はシナプスを構成する前後の要素ともに最適な分化をすることによって実現されるメカニズムであることが明らかになった。
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