研究概要 |
本年度はホスホリパーゼC-δ1(PLC-δ1)の細胞内での制御機構につき、以下の成果を得た。 1. PLC-δ1のプレクストリン相同性(PH)領域の果たす役割と細胞内局在性の変化:PLC-δ1のN端には、PH領域とよばれる機能領域が存在し、触媒領域とは別にイノシトールリン脂質のヘッドグループと結合することが知られている。本研究では、PLC-δ1およびPH領域の種々の変異体を、GFP融合タンパク質としてMDCK細胞に発現させ、細胞内局在性を蛍光顕微鏡下で観察した。野生型、あるいはPH領域のみを発現させたところ、非刺激状態の細胞では、細胞膜に顕著な蛍光の局在が見られた。これに対し、PH領域の欠失変異体や、Ins(1,4,5)P3結合能を失った部位特異的変異導入体を細胞内に導入した場合には、蛍光は細胞質にに分布した。したがってPH領域は、PLC-δ1の細胞膜結合に必須であり、リガンドに配位すると推定されるアミノ酸の置換により本酵素の活性ならびに局在が顕著に変化することが判明した。また、細胞に低浸透圧刺激を与えると、細胞膜に結合したGFP-PLC-δ1が速やかに解離し、核周辺に移動する様子を実時間的にとらえることができた。この変化は、細胞のイノシトールリン脂質の加水分解のキネティクスと相関しており、また、外液を等張に戻すことにより可逆的であった。 2. PLC-δ1のリン酸化:いくつかのPHタンパクがプロテインキナーゼC(PKC)によってPH領域内でリン酸化を受け、活性の制御を受けていることが報告されている。PLC-δ1を種々のタンパクキナーゼとインキュベートしたところ、PKCによってセリンのリン酸化が確認された。リン酸化部位はPH領域中に少なくとも1カ所あり、リン酸化は酵素活性とIns(1,4,5)P3結合能の上昇をともなった。無刺激の細胞の内在性PLC-δ1のリン酸化状態を解析したところ、スレオニン残基がリン酸化されていることが判明した。以上より、PLC-δ1は細胞内で未同定のキナーゼによる構成的なリン酸化を受け、さらにPKCによるリン酸化を介する制御を受けている可能性がある。
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