研究概要 |
酵母の一種であるYamadazyma farinosa IFO 10896を用いるカルボニル基の不斉還元反応を新たな基質に拡張した。一つは還元後の炭素鎖延長反応を可能とするケトアルデヒド体で、実際にはアルデヒド部分をアセタールで保護した1,1-ジメトキシ-3-ブタノンである。この化合物は期待通り(R)-アルコールを収率74%(94%e.e.)で与えた。この化合物からは還元で生じた水酸基を保護した後、アセタールを脱保護をすればアルデヒド基への炭素鎖延長反応が可能である。実際ハロビニル基を導入し、抗腫瘍性物質への変換を試みている。 本酵母による還元は、基質がフッ素を有する場合でも円滑に進行する。α,α,α,-トリフルオロ-β-トルエンスルフィニルアセトンの(S)体をY. farinosaで還元したところ、高い立体選択性で目的のスルフィニルアルコール(>99%e.e.、96%d.e.)で得られた。この化合物はエノラートの不斉プロトン化剤として有効な化合物である。 スルフィニル基の存在する位置に水酸基が存在するケトアルコールの還元では水酸基が結合している炭素の立体配置はカルボニル基の還元反応の立体化学に影響しなかったが、今回のスルフィニル基の場合には両エナンチオマー間に反応速度の違いが見られた。この点については現在詳しく検討中である。 酵母菌体を破砕し、酵素の単離を試みた。現段階では初歩的知見しか得られていないが、この酵素は膜酵素ではないかと考えられる。
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