本研究は比較的構成が単純で、遺伝学的アプローチが可能なショウジョウバエの神経系(主に神経-筋結合系)をモデル材料として、神経回路形成のメカニズムを探ることを目的とする。特に標的細胞の認識過程およびシナプス形成の初期過程に関連した機能分子の同定をめざす。このため最近開発された異所発現トラップ法を用い、新たな機能分子を同定することを試みた。 GAL4は酵母由来の転写因子で標的DNA配列UASに結合し下流遺伝子の転写を活性化する。異所発現トラップ法は、トランスポゾンP因子を用いUAS配列をゲノムの様々な遺伝子領域に挿入した“標的株"を多数作製し、GAL4を特定のパターンで発現する“パターン株"に掛け合わせることにより、“標的"近傍遺伝子を異所発現させる遺伝学的スクリーニングである。本研究においては“パターン株"としてGAL4をすべての筋肉において発現するものを利用し“標的"遺伝子を筋肉全体で強制発現させ、その運動神経シナプス形成過程への影響を免疫組織化学的に調べた。この方法により、本来は特定の神経や筋肉に発現し、標的特異性を決定しており、その異所発現がシナプス結合の特異性を変化させるような分子を単離できると予想した。1000株についてスクリーニングを行った結果、神経結合のパターンに特異的な変化をもたらすものが約15株単離された。これらについて強制発現されている原因遺伝子をRT-PCR法により回収し末端配列を決定したところ、新規の遺伝子に加え、これまでに神経-筋標的認識に関与することが示されているcapricious、netrinB、fasciclinIIなどが同定された。以上の結果は、この実験系の有効性を示している。現在さらに大規模なスクリーニングを進めるとともに、単離された新規の遺伝子について全長配列や発現パターンの決定等より詳細な解析を進めている。
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