本研究は、ショウジョウバエの神経系(主に神経-筋結合系)をモデル材料として、神経回路形成のメカニズムを探ることを目的とする。特に軸索伸長過程やシナプス形成の初期過程に関連した軸索ガイド分子の同定をめざす。昨年度までの計画において、異所発現トラップ法を用い、新規軸索ガイド分子の候補として3011系統を同定した。このトラップ株において強制発現され表現型を引き起こしていると思われる転写産物は、セマフォリンファミリーに属する膜タンパク質sema5cをコードする。3011系統において筋肉全体の異所発現を誘導すると、幼虫において筋肉12を支配する運動神経のシナプス形成が不全になるという表現系を示す。本年度は3011系統における筋肉全体の異所発現の胚発生過程における影響を調べた。その結果、特定の運動神経(ISNb)の軸索伸長に対し、強い反発作用を示すことが明らかになった。また、sema5cの転写産物の胚における発現様式を調べた結果、表皮の1部でちょうどISNbの進路を囲むような形で発現することが分かった。以上の結果は、この遺伝子が反発的な作用を通じてISNbの軸索伸長制御に関与している可能性を強く示唆している。さらに、本遺伝子の正常発生における機能を調べるためimprecise excision法により、本遺伝子を欠失したショウジョウバエ個体を作製し、胚の神経系の形成に対する影響を調べた。しかしながら、運動神経の走行、シナプス形成に顕著な異常は見いだされなかった。このことから、ISNbの軸索伸長制御におけるこの分子の機能は必須ではなく、おそらく冗長的なものであることが分かった。
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