本研究は、ショウジョウバェの神経系(主に神経筋結合系)をモデル材料として、神経回路形成のメカニズムを探ることを目的とした。このため異所発現トラップ法を用い、生体における軸策伸長への影響を直接指標にし、新規の軸策誘導分子を探索することを試みた。約500株について筋肉全体での異所発現を誘導し、運動神経軸索誘導における異常を検索した。その結果、運動神経軸策の伸張、シナプス形成に異常を起こすものを7系統単離することに成功した。これらについて、原因遺伝子を同定するため、トラップ株において強制発現され表現型を引き起こしている転写産物の候補をRT・PCR法によって回収し、末端配列を決定した。得られた塩基配列をgenebank検索にかけることにより、これらが既知の遺伝子への挿入であるのか、あるいは新規の遺伝子であるのかを決定した。また新規の遺伝子についてその正常発生過程における発現パターン等を調べることにより、神経軸索誘導への関与の可能性について検討した。以上のような解析により、軸索誘導に関連した新規の膜蛋白質1092および3011を同定することに成功した。1092はまったく新しいタイプの膜蛋白質(Forked endと名付けた)をコードし、中枢、末梢において1部の細胞において発現している。その筋肉全体における異所発現および機能欠失が特定の運動神経時軸索の投射パターンに異常を生じることから、新規の軸索ガイド分子であることが示唆された。また3011はセマフォリンドメインをもつ膜蛋白質(Scma5c)をコードし、その転写産物は末梢において特定の領域において発現する。その筋肉における異所発現が特定の運動神経のシナプス形成を阻害することから、反発性の軸索ガイド分子として働くことが示唆された。
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