強磁場により誘奪される様々な相転移を、中性子散乱を用いて研究し、磁場中の磁気構造や結晶構造を決定することは大変重要である。本研究では、超伝導マグネットでは達成不可能な20-30テスラ領域での中性子散乱を可能にするために繰り返しパルス強磁場装置を開発した。昨年度は、我々独自の3相積層構造を持ったマグネットを試作して、30テスラを発生することに世界で初めて成功した。本年度はこのマグネットの性能試験を長期にわたって行い、耐久性を改善した。試験によって、絶縁板の材質が重要であることが明らかにされ、ZYLON繊維等の高強度材料を用いることによる耐久性の向上をみた。さらに昨年度から継続して、実際の物質で中性子散乱実験を行い、実際の実験環境における性能の実証試験を行った。具体的にはまず、三角格子磁性体CuFeO_2における非整合磁気相の磁気構造を25テスラまでの磁場中で異なる逆格子空間について中性子散乱で調べた。その結果、ほぼ5倍周期の非整合構造から約20テスラで、フェリ磁性的なup-up-down構造が存在することを示唆する結果を得た。次に、磁場中で多段の磁化の飛びを示すDyCuに関して同様の測定を行い、磁場中の磁気構造の変化を明らかにした。このように、20テスラを越える磁場での中性子散乱が可能なことを本研究で実証することが出来た。完成した装置を用いて中性子散乱実験を進めるとともに、mSRやX線などの測定に応用してゆくことも可能であると考えられる。
|