研究概要 |
準結晶及び近似結晶の電子構造の最大の特徴はフェルミ準位に開く擬ギャップであり,それは電子物性に決定的な影響を与える.擬キャップの概念は高温高圧下の液体水銀における金属-絶縁体転移を論じたMottにより1968年に導入された.研究代表者は電気伝導度が擬ギャップの深さの2乗に比例することを示すMott理論が擬ギャップを持つ準結晶及び近似結晶においてよく成り立つことを実証し,準結晶と近似結晶の伝導現象を利用した応用研究に大きな指針を与えることに成功した. 本研究では熱電効果に注目した.熱電素子は熱を電気に換えたり,あるいは電気を熱に換えたりするデパイスであり,後者は電子冷凍用として期待されている.Al基準結晶・近似結晶の熱電能を80-400Kの温度領域で測定し、熱電特性の優れた準結晶・近似結晶を探索することにより従来の熱電素子に代わる新しい熱電素子開発の指針を確立することを目的とした. 平成10年度には、熱電能測定装置を本予算で購入し、その立ち上げを行なうとともにすでに作製経験がある準結晶としてAl-Mg-Pd,Al-Mg-Znを選び、これらの試料について熱電能すなわちゼーベック系数の温度依存性を80-400Kの温度範囲で測定した.平成11年度にはさらにAl-Cu-Fe、Al-Cu-Fe-Si、Al-Pd-Mn系についてそのゼーペック係数を測定した.Al-Cu-Fe系においてはFeの濃度をわずかに変化させるとゼーペック係数とホール係数の値が正から負へ符号反転することを見出した.これより電子系からホール系へ電子状態が移ることがわかった.また、Al-Pd-Mn準結晶は単準結晶でありそのゼーペック係数は80μV/Kを記録した.
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