研究概要 |
芳香族架橋配位子をもちかつ安定で取り扱いやすいクラスター錯体カチオンラジカルとして、Tetrakis(quinolinato)pyridinedirhodium(II,III)を選び、このカチオンラジカル塩とその中性閉殻電子構造錯体の結晶を調べ、それらの機械的混合に伴う電導度の大幅な上昇の機構を明らかにした。すなわち、(1)中性閉殻電子構造錯体においても錯体分子は、カチオンラジカル塩結晶の場合と同様にπスタック配列していることが単結晶X線構造解析に基づき示された。(2)中性錯体とカチオンラジカル塩の両者の結晶の機械的混合物の粉末X線回折を詳しく調べ、混合物は両結晶の回折の和になっていて、新しい相が生じているのではないことが示された。(3)機械的混合物の磁化率の温度変化がキューリ則に従い、パウリ常磁性を示さないことが示され、電導の機構が金属電導的ではないことが示された。(4)機械的混合におけるモル混合比が20-80%の範囲で混合物の電導度がほぼ一定で有ることが示された。これらの結果と、前年度までの研究結果を総合すると、1.中性錯体とそのカチオンラジカル塩の機械的混合が、カチオンラジカル塩に対する電子ドープをもたらし部分酸化系を与えること、2.このような部分酸化系における電導性は分子間電子移動によること、3.芳香族架橋配位子の分子間πスタックが電子移動・電導性付与に充分であること、4.δ_<MM>^*-π_L相互作用による金属原子上のフロンティア軌道の10%程度の非局在化が電子移動・電導性付与に充分であることが示された。
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